人口約2万人のうち、在留邦人が約370人生活しているとされる、パラオ共和国。親日国として知られるパラオでは、日本統治時代に日本語が使用されていた歴史があります。パラオは第一次世界大戦後、約25年間に渡って日本の統治下にあり、戦時中には日本軍に守られる出来事などが続いたことから、親日感情が強まったといわれています。
このような歴史的背景から、公用語をパラオ語とするパラオの言語には、日本語が由来となった言葉が1,000語近くあるとされています。そうして、次第にパラオは日本人が訪れやすい国として知られるようになり、今では、年間2万人以上の日本人観光客がパラオへ旅行するなど、日本とパラオは未だに良好な関係を築いています。また、それに伴いパラオでの日本語教育も行われています。パラオの方は日本語を学校で勉強し、観光産業へ就くことも多いようです。
今回紹介するこの記事では、パラオの言語事情や現在の日本語教育をはじめ、日本語由来のユニークなパラオ語やパラオと日本の関係性まで詳しく伝えています。また実際にパラオに訪れた筆者が、どれほど日本語が通じるかの体験談も記しているので、旅行で使える実用的な情報が得られると思います。
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パラオにおける日本語使用の歴史的背景について深く知りたい方は、「パラオにおける日本語の諸相」をぜひ合わせてご覧ください。
パラオで日本語はどれだけ通じる?パラオ特有の言語事情
親日国であるパラオ共和国は、日本だけではなく世界中から移民が多い国として知られており、世界各国の言語が日常的に飛び交います。
現地では、パラオ語と英語をはじめ、タガログ語、日本語、中国語、ハングル、ヒンディー語など、さまざまな言語が使われています。
ここでは、そんなパラオ特有の言語事情について紹介していきます。
公用語は英語とパラオ語
パラオの公用語はパラオ語と英語です。元々使用されていたパラオ語に加えて、米国統治時代に英語が加わりました。
英語は、老若男女ほぼすべてのパラオ人が喋ることができます。実際に筆者が旅行した際も英語が通じなかったことは一度もありませんでした。しかし、発音やアクセントはネイティブ英語と少し異なるので、ヒアリングの際は若干の慣れが必要です。それでも、中学卒業レベルの英会話が身についていれば、旅行中困ることは少ないでしょう。
国民の総人口約2万人のうち70%がパラオ人で、残りのほとんどが移住者です。なかでもフィリピンからの移住者が多く、一定数タガログ語を話す人がいます。仲良くなったパラオ人にフィリピン語を話すか聞いたところ、少しは話すことができ、理解もできるとのことでした。
パラオのアンガウル州は日本語が公用語
パラオのロックアイランド群の南部に位置するに「アンガウル島」。この島では、1980年頃アンガウル州憲法に則り、パラオ語と英語に加えて日本語が公用語として制定されました。それには、第二次世界大戦前にパラオが日本の統治下にあった歴史的背景が関係しています。
1914年頃から、戦時中に多くの日本人がパラオに移住しましたが、終戦後、パラオに住む多くの日本人が帰還を余儀なくされる中、唯一アンガウル州のみ、一部の日本人が残り居住を続けました。
やがてパラオはアメリカ統治下となりますが、アンガウル州では、それ以降も日本語が共通言語としての役割を果たしています。現在では、日常会話で流ちょうに日本語を話す住民は減ってしまいましたが、憲法には公用語に関する記述が今なお残されています。
日本国憲法には日本語を公用語と制定していないため、世界で唯一日本語が公用語に選ばれているのがアンウガウル島という事実には驚かされます。
現地で体験!パラオ旅行中、日本語はどれだけ通じる?
せっかくなので筆者もどこまで日本語が通じるか挑戦してみました。体感として、日本語で日常会話ができるようなレベルではなく、「こんにちは」といった挨拶の言葉や「ありがとう」といった感謝を伝える言葉など、一つひとつの単語を理解できる現地の人が多くいました。実際、パラオ語の約20%が日本語由来のため、単語をうまく使えばなんとか意思の疎通ができます。
まず道で会ったパラオ人に日本語で話しかけると、反応はありません。そこで英語で「 Do you know any Japanese word?」と聞くと、「アジダイジョーブ」と返ってきました。この方は「アジダイジョーブ」のみで、ほかにもランダムにパラオ人に話しかけると、多くても2、3単語しか知らない様子でした。
そこで、こちらから「センキョ」や「デンワ」を知っているかと聞くと「知っている」と答えます。どうやらどの単語が日本語由来なのか、とくに区別をしていないようです。
会話中にふと漏らした日本語を理解してくれることもあるので、英語がどうしても苦手な方は、現地のレストランやお土産屋でかんたんな日本語で問いかけてみましょう。
ちなみに「アジダイジョーブ」は日本語で「美味しい」という意味です。
レストランやホテルで聞いてみると、「日本語を話せるスタッフを呼んでくる」との返答。パラオの主要ホテルには日本語を話せるパラオ人スタッフや、場所によっては日本人スタッフが常駐していました。
言葉の壁が気になる場合は、ホテルを予約する前やレストランに行く前にホームページなどで対応言語を見ておくと安心です。どちらも高級クラスはほぼ確実、中級クラスでも半分くらいの確率で日本語が通じます。
日本語が由来となったパラオ語
パラオ語の中で日本語由来のものが多く混じっていますが、今でも実際に500近くの単語が使われています。フレーズや単語だけではなく、人の名前や土地の名前にも使われているパラオ語がたくさん存在しており、日本人であれば馴染み深い言葉ばかりです。
ここでは、パラオでよく使われる日本語由来のフレーズを紹介します。
パラオでよく使う日本語由来のフレーズ5選
日本語由来のパラオ語は、ほぼ日本語と同じような意味で、若年から中年層まで幅広く使われています。
- ダイジョーブ:体調を伺うケースやサービスの質を聞くときに使われます。また、先程も述べた「アジダイジョーブ」という言葉は、料理の味の感想を伝えるときにかなり重宝します。
- アリガトウ:挨拶やコミュニケーションで使われる鉄板フレーズ。実際に、アリガトウと現地の人に声を掛けると喜んでくれます。言葉だけで、お互いに自然と笑みが溢れ出る魔法の言葉です。
- アツイネ:南国ならではの毎日使われる言葉。会話の始まりで「アツイネ〜!」と話しかけると現地の人との距離がギュッと縮まるのでおすすめです。
- ショウガナイ:ダイジョーブと同じような意味合いで使われていますが、こちらの方がより親しみが込められています。現地の人が実際に使っているのを耳にすると、思わずクスッとなってしまいます。
- アサヒ:これは日本で有名なビールのブランド、「アサヒスーパードライ」のことです。パラオに住む多くの人たちは大のお酒好き。初対面の人であっても、アサヒと声を掛け合うだけで仲良くなれますよ。
ここで紹介したフレーズは旅行期間中によく耳にするので、機会を捉えて現地の人に話しかけてみてくださいね。
日本語由来のパラオ語フレーズ集
ここまで紹介した言葉に加えて、他にピックアップした日本語由来のパラオ語フレーズを一挙にご紹介します。どれも日本語と同じような意味があり使いやすいので、パラオ旅行の前にはぜひチェックしておきましょう。
【日本語由来のパラオ語の一例】
- アクシュ・・・握手
- アサヒ・・・ビール(アサヒスーパードライ)
- アジダイジョーブ・・・美味しい
- アツイネ・・・暑いね
- アリガトウ・・・ありがとう
- イクラ・・・いくら(How much?)
- イレバ・・・入れ歯
- エリ・・・襟
- カビ・・・カビ(賞味期限切れの意味としても使用)
- カクジツ・・・確実
- キツネ・・・狐(うそつきの意味としても使用)
- ケンポ・・・憲法
- コンニチハ・・・こんにちは
- ショウガナイ・・・しょうがない
- ダイジョーブ・・・大丈夫
- ダイトウリョウ・・・大統領
- ダメ・・・だめ
- チチバンド・・・ブラジャー
- ツカレナオース・・・お酒を飲むこと(「お疲れさま」が転じたもの)
- ハエリ・・・流行
- バッキン・・・罰金
- ハンゲ・・・はげ
- ヒドイ・・・ひどい=激しい(太陽の光や雨の程度が激しいという意味で使用)
- フトング・・・布団(ベッドの分厚いマットレスも含まれる)
- ムリ・・・無理
- メンドクサイ・・・面倒臭い
参照:
この他の言葉で、個人的に筆者が印象的だったのは、「ツカレナオース」が「ビールを飲む」という意味だったり、「チチバンド」が「ブラジャー」だったりと、思わず笑ってしまうフレーズがいくつかありました。
また、日本統治下に日本名をよく聞いていた名残から、「タケシ」さんなどファーストネームに日本名を名付けられたパラオ人も数多くいたのにはビックリしました。
在パラオ日本国大使館が運営するYouTubeチャンネルでは、現地の人の映像を交えながら、日本語由来のパラオ語を動画で紹介しています。ぜひ気になる方は、こちらもチェックしてみてください。
パラオの国旗に見られる日本との歴史的背景
パラオの国旗は長方形の中に大きな円を描かれてあり、まるで日本の国旗と見た目が似ています。パラオは歴史的背景から親日国家として知られていることもあり、日本の国旗を元にデザインされて、日章旗に敬意を表すために「あえて中心から少し横に移した場所に円を描いた」という説があります。
しかしパラオ側はこれを否定しており、実際には、国旗のデザインである背景の青はパラオの美しい海を、黄色の円はパラオから見える美しい満月をイメージしたと明言しています。
それでもパラオと日本の歴史を考察すると、日の丸由来であるという説が生まれるのも納得できますし、意図していなかったとしても、日章旗に似ているため選ばれたという可能性も考えられるため、未だに真相はわかっていません。
とはいえ、日本語由来のパラオ語が数多くあることからもわかる通り、先人達が築き上げてきたパラオと日本間の絆が深いものであるのは確かです。このようにパラオと日本の関係性やパラオ人の思想を学びながら旅をすると、よりパラオ旅行を楽しめるはずです。
現在のパラオにおける日本語教育は?
現在のパラオの日本語教育は、主に中等教育(14~17歳)と高等教育(18歳~)の「選択科目」として行われており、初等教育(6~13歳)では実施されていません。
日本語を習得しているパラオの方は年々少なくなっており、継続して日本語教育を受ける学生は多くないのが現状です。そもそもパラオの方が日本語を習う需要は、日本人の観光客が多いパラオでの観光産業にあります。
パラオと日本は、第二次世界大戦後にとても深い関係性を築きました。そのため、パラオに訪れる観光客は日本人が多く、就職に役立つという点で日本語を習う学生は一定数いるようです。なお、観光業を専攻する学生は日本語が必修科目となっています。
詳しくはこちら:JAPANESE FOUNDATION 国際交流基金|パラオ
日本語でのコミュニケーションも楽しんでみよう
パラオと日本との関係性をみると、いかに日本語が由来となったパラオ語が多いかがよくわかります。ただ、いつでもどこでも日本語が通じるわけではなく、どちらかというと日本語由来のパラオ語が多いことからなかに通じやすい日本語もある、程度で捉えておくとよいでしょう。パラオ人に出会ったら、ぜひ知っている日本語がないかコミュニケーションをとってみてください。「ダイジョーブ」は比較的通じやすいですよ。
ツアーガイドやインストラクターの中には、流暢な日本語を話すパラオ人や、日本からの移住者も多いので、安心してツアーを楽しめます。また、ホテルやレストランでは日本人スタッフや日本人マネージャーを見かけることもあり、他国と比べて圧倒的に多かった印象です。
言語にどうしても不安がある方は、あらかじめ日本人スタッフの有無を確かめたり、最低限の英語を覚える、もしくは指さし英会話帳などを持っていったりしましょう。
日本語が通じなくても、パラオ人が日本や日本人のことが大好きなことに変わりはありません。日本語・英語・パラオ語に加えてボディーランゲージも交えながら、パラオ人とのコミュニケーションを楽しんでください。
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